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執筆者の写真中西 紹一

厚労省・クラスター対策班に見た『希望』



コロナ禍の中では、家でテレビを視聴する時間が圧倒的に増えてしまいます。しかし、テレビがつまらない。あまりにつまらない。そうなると結局のところニュースやNHKばかりを見てしまう。ただその中でも、NHKスペシャル「新型コロナウイルス 瀬戸際の攻防~感染拡大阻止 最前線からの報告~」(2020年4月11日放送)は本当に刺激的で、かつ自分にとっても未来への『希望』が実感できた、そんな番組だったと思っています。

「8割おじさん」西浦教授を含めたクラスター対策班には批判も多いのは事実です。実行再生産数の設定自体がおかしいとか、計算そのものを疑問視する研究者もいるし、クラスター対策自体の限界を叫ぶ識者も数多く、クラスター対策班に対するネガティブな情報はいまもネット上を徘徊しています。それでも自分には、NHKスペシャルを見て未来への『希望』がかすかに見えたと感じました。

『希望』を感じた理由は、日本国内の新型コロナウイルス対策が、国内感染者110人に対する徹底的な疫学調査の結果を踏まえて戦略化されたということを知ったからです。110人の調査から1.2億人の健康を守る戦略をつくったのですよ?これ、凄いと思いませんか?



当然、事前の論文情報や研究者からのアドバイスもあったでしょうが、クラスター対策班は、徹底したフィールドサーベイとそこから得られた一次情報から戦略構築を図るということを、やってのけたのです。これ、本当に凄まじいことだと思っています。そしてこのような姿勢こそ、まっとうな科学者の証であり、賞賛すべきことではないでしょうか。逆に、この姿勢が決定的に欠けているのが、現在のビジネスパーソンです。



近年はビッグデータが重宝され、データ収集がウェブ等から簡単に得られるからか、フィールドサーベイのような調査はビジネスの世界では敬遠されがちです。私の会社(PCJ)のように、「やっただけワークショップ」を避けるためにワークショップの発話データを文字化し、質的データ分析(QDA)を行っても、「なんでそんな手間暇かけるの?コストばっかりかかるじゃないか?」と言われたり、トータル40-50人のワークショップ参加者を苦労して分析しても、「代表性あるわけ?」と皮肉の一つもいわれたりします。



理由はわからないのですが、今のビジネスパーソンはデータに真摯に向き合わない人が多い傾向にあると思っています(偏見かもしれませんが…)。加えてこのような傾向がある人ほど「ビッグデータ」や「AI」がお好きのようです。要は、一次情報がお嫌いなだけ、ということではないでしょうか。



話は変わりますが、同じNHKスペシャル「新型コロナウイルス〜ビッグデータで戦う」(2020年5月17日放送)は、ひどかったですね。コロナ研究の全体像をAIで可視化するため5万を超える研究論文をAIを使って分析した、との謳い文句で構成された内容なんですが、結論は「血管の炎症」こそがこの病気のポイントだということだそうです。これを見た時「今さらこれなの?そんなこと、当初から臨床現場でわかっていたことじゃない?」と思わず叫んでしまいました。



第三世代AIの限界を目の当たりにさらした番組としては価値がありましたが、おそらくこの番組を見て「AIは凄い」と誤解した人もかなりいたと思います。番組的にはいいかもしれませんが、これは「ちょっとまずいんじゃない?」と感じたし、何か納得できないなぁと感じた人、けっこういたのではないでしょうか?



『希望』の話に戻りますが、自分のやっているワークショップとその分析は、ごくわずかの世界しか捉えることもできません。しかしそれでもデータに真摯に向き合えば、おのずと道が見えてくるに違いない、そう思えたからこそ『希望』を感じたのです。ワークショップとそこから得られた一次情報に向き合い戦略・戦術を構築することは、もしかしたらクラスター対策班と同様、まんざら悪くない、もしかしたらこれから最先端に向かうかもしれない、と実感できたわけで(誤解かもしれませんが…)、その意味でもクラスター対策班の皆さまには、大きな拍手を送りたいです。



そして最後に一言。



徹底したフィールドサーベイとそこから得られた一次情報から戦略を構築する際、最も重要なポイントは「勇気」です。勇気がなければ実行できないので。クラスター対策班にできて、もしビジネスパーソンにできないのであれば、その差はおそらく能力の差ではなく「勇気」を持っているかどうか、その差だけだと思います。



その意味でも、クラスター対策班の皆さんは勇者の集団ですね。



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