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執筆者の写真中西 紹一

ワークショップは課題解決の場か、それとも課題発見の場か?

更新日:2020年6月29日



私はコミュニケーション開発では常にワークショップを活用するので、ワークショップ業界(?)にも属していると思っているのですが、この業界、最近ビジネスシーンにもたびたび登場しており、いろんなセールストークを目にする機会があります。



その中で、特に気になることば、というより違和感満載なキーワードは、なんといっても『課題解決』でしょう。



『弊社のワークショップは、ビジネスの課題解決に直結します!』というフレーズ、結構聞きますよね。という自分も、かなり違和感満載の中で『課題解決』ということばを使わざるをえない機会がよくあります。説明が楽なんですよね、自分のスキルやプログラムを売り込むのに。けど違和感満載で、自分でこれを言葉にすると「残念…」といつも自虐的に心の中でつぶやいてしまいます。。。。



なぜ私が『課題解決』という言葉に違和感を持っているかというと、『課題解決』という能力自体はすでに人間が言語習得のプロセスで、子どものころから獲得している能力だからです。言語や記号=道具を媒介として課題に向きあい、その解決を図ることで人間精神の発達が獲得できるのであれば、私たちはすでに日々『課題解決』を行っているわけです。これはヴィゴツキーが80年以上前に指摘したことですよね。



しばし私は「ワークショップを実施する目的は『課題解決』ではなく『課題発見』&『課題共有』なんですよ」とクライアントに語っています。



これは、「ワークショップ〜偶然をデザインする技術」の共同執筆者で、現在岡山理科大教授の宮脇靖典さんとは、10年以上前からさんざん話し合ってきたことです。だってビジネスワークショップを依頼するクライアントにとっての課題解決ツールは、クライアントの商品やサービスそのものなんですよね。だからビジネスが成立しているわけで、なんで今さら『課題解決』なんですか?とつい言ってしまいます(言うと議論は冷たく停止します)。ヴィゴツキー流にいえば、課題解決は、すでに広く暮らしの中に埋め込まれているもの、といってもいいでしょう。



今のビジネスで一番問題なのは、課題が何かを的確に把握していない(そしてこれを組織で共有・シェアしていない)という点に尽きると思います。例えば広告業界にとって広告こそが課題解決のツールであって、それ以上でも、それ以下でもないはずです。なのに広告代理店から「このプログラム、クライアントの課題解決に直結する弊社オリジナル・ワークショップです」などと言われたら、こちらの目が点になってしまいます。だって、広告代理店さんの課題解決ツールって広告ですよね?ということになるからです。



なので私は「このワークショップこそ、課題解決に直結します」というメッセージを発信する企業や団体を、基本信用しません。ワークショップは『課題発見の場』です。ワークショップの実施サイドは課題発見を趣旨とし、最終的な課題解決はクライアントが自分の力で実施するというスタイルを徹底しなければ、クライアントは成長しません。



私のビジネスワークショップでは、参加された一般生活者を対象に課題解決を実施してもらい(一種のグループワークですね)、この観察と分析(質的データ分析/QDA)から課題を発見することを主眼としています。このことを15年ぐらい言い続けているのですが、結構趣旨や狙いが理解されないですよね。特に「一般の生活者が、こんな難しい課題にアプローチできるのか?」とクライアントから言われたりするのですが、ご安心を。全然大丈夫ですし、一般生活者に課題解決能力がないと思い込むことのほうが課題満載なので、そこから改めた方が良いかもしれませんよね。



答えをすぐにほしがる風潮には乗れないので、口が裂けても『課題解決』とは言いたくないのですが、言ったほうが儲かるかもしれない誘惑に、日々さいなまれています。



結構、悩ましい問題です。

悩みながら、次は『課題共有』の話をしますね。



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